幼稚園の話
昔のことをあまり覚えていない。
人より長期記憶の容量が少ないと感じることが多々ある。実家に帰って父親と話しても小学校以前の記憶が食い違っていて、私自身も自信を持って主張ができないほど記憶できていない。
そして父親には「いろいろやらせたんだけどな」とか「何も覚えてないんだな」とチクっと言われる。
多少そういう病気なのかと思ってはいるが、昔のことを覚えていないことにそこまで不便を感じないので悲観的にはならずにいる。
幼稚園までの記憶なんてものはほとんどない。
友達だって幼稚園から小学校に上がるときに少し遠くに引っ越したもんだから、特に家族ぐるみで仲の良かった1人と、のちに会う2人のみの3人しか認識しておらず、のちに会ったとしてもこっちからはさっぱり覚えてないのでいつもあっちから言われて気づく。
人見知りなんて多分酷かっただろうし、いつも1人で遊んでいただろう。細かく覚えてるのは幼稚園で飼っていたアヒルを唯一捕まえることができる園児だったことと、誰もやらなかった竹馬を1人だけ練習していたことくらいで、その時から1人だけ違うことをしたい気持ちがあったのだろう。
中学に上がる前に数人が一度幼稚園に集まる日があった。唯一仲良かった奴も再会した奴も来てなかったので、大勢で盛り上がっている輪に入らなかったのは覚えている。お世話になった先生、園長先生、話しかけてくれた親御さん全員が初対面のように感じた。
残念ながらその当時の気持ちも覚えていない。楽しかったのか、苦痛だったのか、毎日何を思って過ごしたのかがどうしても思い出せない。
ただいつからか泣き虫だった自分がほとんど泣くことのない子供に変わったことは覚えている。強くなったのではなく泣いても変わらないことの方が多いと気づいたような感覚だった。
子供の頃の記憶はほとんど自分だけで完結しているものばかりで、そのどれもがどんな感情だったのかも覚えていない。あまりいい思い出ではないことが確かではあるがこれといって嫌だと思うこともない。
父親が言うには、入園した1週間後には「今日は行かなくていいかな」なんて生意気なことを言ってたらしいがとても自分が言い出したとは思えないし記憶がない。クラスも覚えてない。
自分自身の鬱屈とした気持ちが記憶に残さないようにしているのではないかと思う。何せ最近思い出せなくなったわけでもなく小学生の頃から思い出せなかったから。
自分の記憶が時間的な部分でなくて感情的な部分で記憶できないことがあるのであればここ1.2年のことはあまり覚えていられないかもしれない。